作品名Iam,Iwill.
元ネタ東方Project
公開日2010510
公開場所なし
頒布イベント博麗神社例大祭12
掲載誌清ク照ラセレド、惑ヘル

§

むかしむかしあるところに お姫さまと、王子さまと、お姫さまの召し使いが いました。 三人は〝ふろうふし〟で としをとることも、しぬこともありません。 ずうっと、ずうっと、いきています。 お姫さまは、王子さまのことを、 とてもたいせつに思っています。 王子さまと、ずっといっしょにいられて とても幸せです。 王子さまは、お姫さまのことを、 とてもたいせつに思っています。 お姫さまとずっといっしょにいられて とても幸せです。 召し使いは、お姫さまのことを、 とてもたいせつにおもっています。 お姫さまと王子さまが ずっといっしょにいられることを、 うれしく思っています。 でも、召し使いにはひとつだけ心配がありました。 お姫さまと王子さまが〝ふろうふし〟でも、 おうちはいずれこわれてしまいます。 おうちがこわれれば、またたてればいいです。 おうちがたたなかったら、草原でくらせばいいです。 草原がなくなったら、山でくらせばいいです。 山がなくなったら、湖のほとりでくらせばいいです。 湖もなくなってしまったら…… お姫さまと王子さまいがいのものは、 ぜんぶ、いつかなくなってしまいます。 大地も、山も、空も、雲も、太陽も、星も、 みんななくなってしまったら 三人はどこでくらせばいいのでしょう。 どうなってしまうのでしょう。 召し使いは、とおいとおい未来、 せかいがどうなってしまうのか 考える旅にでました。

§

このせかいは、どうやってできているの? はくれいれいむは、 このせかい幻想郷をかんりする、〝巫女〟です。 せかいのことは、彼女にきけばきっとわかるはず。 はくれいれいむは、言いました。 このせかいには〝はし〟があって、 その内側を〝せかい〟と言うのだとか。 はくれいれいむは、 せかいの〝はし〟を守るのがお仕事です。

せかいは、どんどんふくれているの。

どんどんどんどんふくらんで、

ずうっと未来には、はしがこわれてしまうの。

せかいの〝はし〟がこわれたら、 外側のものが入ってくるのでしょうか。 それともせかいは消えてしまうのでしょうか。

ちがうわ。

外側のものは、今でも入ってきてるわ。

せかいのはしがこわれたら、

内側のものが、ぜんぶ外側にいってしまうの。

外側には何があるのだろう。 でも、外側のことははくれいれいむもよく知らないようでした。 せかいの〝はし〟はどうなっているの? みずはしパルスィは、〝はし〟に住まう妖怪です。 〝はし〟のことは、彼女にきけばきっとわかるはず。 みずはしパルスィは、言いました。

その〝はし〟は、

ちがう〝はし〟だわ、私は知らない。

召し使いは、がっかりしてしまいます。 でも、みずはしパルスィは召し使いに、こう言いました。

それでもこの〝はし〟は、

むかしはせかいの〝はし〟だったそうよ。

〝じごく〟とよばれる、別のせかいがあったのだそうです。 〝じごく〟はすっかりぼろぼろになってしまいましたが、 今でも消えないでにのこっています。 そこに住んでいた少しの人々も、こうして残っています。 〝じごく〟の人々が今でも生きているのは、 それをみんなに「知って」もらったからなのだそうです。 このせかいも、永遠に誰かに知っていてもらえれば、 消えずにすむのでしょうか。 召し使いは見られている間だけそこにいて 見られていない間はどこにでもいるという まほうのネコのことを思い出しました。 ぬえは、正体をかくしてしまうのが得意な妖怪です。 見られている間だけ生きているというまほうのネコや 知ってもらっている間だけ存在するという不思議なせかいのことも、きっと彼女にきけばわかるはず。 ぬえはいいます。

あなたが見ていない間、せかいは

[色んな文字を重ねて読めない図]になっているの。

さいごのあたりは、ききとれませんでした。 何回きいてもわかりません。 わからない理由をたずねると、 召し使い自身がもうそれを全部知っているからだと言います。 平らでもあり、ぐにゃぐにゃ曲がっているのでもあり、 細長くて、四角くて、丸くて、三角。 見ていない間は、どれでもあるのだといいます。 でも、見ているとかならずひとつの形になると言いました。 自分が見ている間は、自分が知っている姿になる。 自分が目をはなさないままいれば、 せかいの〝はし〟とせかいの形を、 知ることができるのかもしれません。 せかいの外側は、どうなっているの? やくもゆかりは、〝さかいめ〟をあやつるようかいです。 せかいの〝はし〟があるのなら、 その外側との″さかいめ″の向こうがどうなっているのか、 やくもゆかりにきけばきっとわかるはず。 やくもゆかりは、言いました。 せかいの〝はし〟の外側は、 [色んな文字を重ねて読めない図]になっているの。 さいごのあたりは、ききとれませんでした。 何回きいてもわかりません。 わからない理由をたずねると、 やくもゆかりにもわからないそうです。 はくれいれいむが守っている、 〝せかいのはし〟がなくなって、 みんなが外に飛び出すと、どうなるの? やくもゆかりは、コップいっぱいの塩水を用意しました。 やくもゆかりは、それをなめてみてと言うので、 召し使いは、それをひとくちなめます。 しょっぱい。 やくもゆかりは、コップのしお水を、 みずうみにながしました。 やくもゆかりは、それをなめてみてと言うので、 召し使いは、みずうみの水をひとくちなめます。 しょっぱくない。 しょっぱさの〝あじ〟はどこへ行ってしまったのだろう。 みんながそとがわにいってしまうのは、 そういうことだといいます。 やくもゆかりは、うすまってしまうのだ、と言いました。 せかいがうすまると、どうなってしまうのでしょうか。 なくなってしまうのでしょうか。 しょっぱさを見ていることができなくなっては、 いつか消えてしまうかもしれません。 こまった召し使いは、オニをたずねることにしました。

§

いぶきすいかは、 〝こいこと〟と〝うすいこと〟を行き来できるオニです。 せかいがうすくなったらどうなるのか、 かのじょにきけば、きっとわかるはず。 いぶきすいかは言いました。

あたしがうすくなっても、

あたしはあたしだよ、消えてしまうわけじゃないさ。

うすまってもきえてしまうわけじゃないのだそうです。 はくれいれいむの言うとおり、 せかいがどんどんひろがっていってうすまっても せかいが消えてしまうわけではないようです。 召し使いは、ほっとしました。 でも、塩水のしょっぱさがわからなかったことが、 やっぱりきがかりです。 ほんとうに、ずっとずっとうすくなっても、せかいはのこりつづけているのでしょうか?

§

しきえいきヤマザナドゥは、 白黒はっきりつける、えんまさまです。 どこまでうすくなれば、 〝せかいはない〟ことになってしまうのか、 かのじょにきけばわかるはずです。 しきえいきヤマザナドゥはいいました。 どんなにうすくなっても、 ゼロでないかぎりはそんざいしないことにはできない。 召し使いは、ほっとしました。 やっぱり、なくならないんだ。 しょっぱさがわからないしお水も、 ちゃんとしお水だとしっていれば、 だいじょうぶなはずです。

§

そしてさいごに、 召し使いはじぶんのちしきをつけくわえます。 せかいがとてもとても、大きく、うすくなって、 ほとんどうごかなくなっても、 その中にいる人たちが、自分を「知って」、 いれば、生きていくことができる、ということです。 召し使いは、正しいかどうかわからないままだった 〝永遠の知性〟という考え方を、 正しいと思いました。 召し使いはよろこびました。 お姫さまと王子さまは、 えいえんに生きていても、えいえんにしあわせなままです。 召し使いは、 お姫さまと王子さまが、たまにけんかをしても、すぐになかなおりするのをしっています。 きっと、えいえんのしあわせが、 二人をうけいれてくれることでしょう。 せかいも終わらないし、二人もなかよしのまま。 召し使いは、安心しました。 ふとそこで、召し使いは、 自分もえいえんであることを思い出します。 お姫さまと王子さまは 二人でいっしょに、えいえんを続けるでしょう。 では、召し使いは ずっと、ずっとひとりぼっちなのでしょうか。 召し使いは、きゅうに、かなしくなってしまいます。 わたしは、えいえんにさみしいのかしら。 召し使いが、かなしみにしずんだとき。 召し使いはそこで、自分の名前をよぶ、 ききなれた声をききました。

§

それでー?

それだけよ、おしまい

私は、傍にいる幼い妖怪の頭を撫でた。

えー、いみわかんなーい

そうね、すこし、難しかったかしら。

結局陽子崩壊も、観測されなかった。

まだ宇宙の永遠は、否定されていないのよ

……よくわかんないや。

召し使いをよんだのは、だれだったの?

だれだったのかしらね。

もう、忘れてしまったわ。

昔の、ずっと昔のことだもの。

あの頃にも、幼い妖怪がいた。妖怪だけじゃない、人間もいたし、霊獣や妖精もいた。人間と、多くの「それ以外」が明確に区別されていた頃、それと分け隔てなく接した、幾何かの存在があった。あの人も、そうだった。人も妖怪も妖精も、みんな一つの部屋に入れて、みんな一緒に授業を受けさせていた。

せんせー、けっきょく、なんのおはなしだったの、これ

宇宙の謎に迫った学者の話よ。難しいでしょ?

だから私も、その中にいたいと願った。月から来た異邦人でありながら受け入れられ、私も、それらの受け皿になりたいと思った。

え、せんせいのおはなしじゃないの?

まさかあ

おはなしのいみ、わかんないー。むずかしいよ

そっか。じゃあもっとお勉強しないとね

おべんきょーきらーい。おんもであそぶー

しかたのないのね、いってらっしゃい。私はその幼怪を膝から降ろして、外へ送り出す。外では、博麗の巫女や鬼、気のいい妖怪や河童が、今でも子供たちと遊び相手になってくれている。

本当、素敵な世界よね、ここは

月から逃亡してきて、罪を犯してまで守った永遠と幸せが、きっと生きているのだ。

慧音

私は、つい、名前を呼んでしまった。あの時、私の名前を照れくさそうに呼んでくれたあなたのように、今その名を呼んで、あなたはもういないのだけれど。

あなたがやっていたことを、今は私がやっているわ、慧音センセ

もう、思い出して泣くような思い出ではない。涸れるほどに泣いて流した涙も、今では嘘のように一滴だって出ない。それこそ涸れたのかもしれないが、悲しさよりも今は、逆に甘く感じてしまうのだ。慧音と死別してからもう、随分と経っている。それこそ、昔話にして子供たちに話して聞かせられるくらいに。

輝夜も妹紅ももう、すっかり住人だった。まるで私の方が二人よりも年下なんじゃないかみたいに、気を使われて優しくされていた。情けないような気もするけれど、それはそれで、もしかしたら彼女達の罪滅ぼしの意識の拠り所になっているのかもしれないと、私一人が悪役になって済むなら、そんな嫌な女でいようと思う。

……先生と呼ばれるのが嫌いって、言ってたわね、そういえば

昔を思い出し、あの人の顔を思い出し、あの人の温もりと優しさを思い出す。

センセー

外から子供が私を呼んでいた。

はあい

かぐやひめさまとふじわらさまが、よんでるー

はーい、今行くわ

あの人も、こうしてよくセンセと呼ばれていた。みんなから慕われるいい先生だった。先生と呼ばれるのが嫌いでも、あなたはずっと〝慧音先生〟だった。それは今でも、きっとこの先も、永遠によ。

私が手習い道具をしまったり子供たちの散らかしたのを片付けたりして、もたもたと寺子屋を出ないでいると、襖が開いて威勢のいい声が飛んできた。

おぉい、永琳よう。早くしろい、今日は慧音の命日だろう。墓参りって言ったじゃないか

ちょっと、妹紅。一応、ほら、あれなんだから……あんたもそうなのかもしんないけど

輝夜が気を使ってくれていた。それには及ばないわよ。

大丈夫よ、少し片づけていただけ。それよりなあに二人とも。そんなに慌てなくっても、慧音は逃げないわよ

そうだがよぉ、妹紅が不服そうに言う。どうせ、お墓参りの後の食事が楽しみで仕方がないのだ。妹紅も、当時はご飯も食べないほど落ち込んでいたが、今はすっかりこの通りだ。それに、それを境に、〝藤原〟と呼ぶのを、改めさせられた。彼女にも考えがあってのことだったのだろう。

輝夜が、あんまりに弔いの意が見えないと妹紅のほっぺたをつねって制止している。私はつい、笑ってしまった。

未来は決して閉じていない。消えたり無くなったりもしない。ずっとあり続ける。

慧音は、永遠にここにいるって、言ってくれたのだもの

二人で犯した罪、結局あなたは墓場まで持って行ったのよね。生憎私は死んで終わりにするなんて「安っぽい思考停止」は、出来ない身なの。

だから、慧音、あなたは永遠に、私の共犯者だし、私はあなたの共犯者。この関係に、終わりなんてないわ。

そうよね、慧音センセ。